ふた昔前まではK&Mのマイクスタンドと言ったらそらアナタ大したもんだった。流石ドイツの老舗メーカーだけあってしっかりどっしり。ところが最近同社のスタンドと来たらどうなのよ!
生産が某国へ移ったのかどうか知らんが各部をグィッと締めてもロクに固定出来ない。ブームをいっぱいに伸ばすと知らない間にお辞儀しだすし、トークボックス用のホースなんて使うとスタンドは勝手に好きな方へ動きだす。
ちょっとした事なんだけど各ネジ類の精度が甘く締め付けが効かないし、すぐバカになる。
K&Mでもそうなんだから他メーカーでもほとんど同じ様なもの。私個人持ちの日本製スタンドは35年以上使っているが未だにピンピンしてる。
最近のマイクスタンドがダメダメなら肝心のマイクは? と言うとこれが、また……ね。
画像右はみな20〜30年使い倒して来たマイク。1番古いのは私が19歳の時に買った57で当時9万くらいした。どれも塗装は剥げ剥げで見た目は悪いが音はビンビンである。
いつも57、58と画像下のPL80を持ち歩いているのだがライブハウスでヴォーカリストがモニターに苦労してエンジニアが「うーん…。」となるとおもむろに「マイク換えまーす。」と店の真新しい58から私のマイクに差し替える。
それでほとんどの場合解決である。もちろんモニターだけじゃなく外音も抜けるしハウリングも抑えられる。
見た目は似てても中身がぜんぜん違う。私の持っている57や58等のダイアフラムはアルニコ・マグネットだが現行品はフェライト・マグネット。どちらが良いとかじゃなく、現行品の音は私等が知っている世界スタンダードの57,58じゃないってことは確かだ。
クジラの愛称でお馴染みのゼンハイザーのダイナミック。これ1本持っていればヴォーカルからキックまで何でもOKと言われた程の最強マイクだが、ドラマーにぶっ叩かれてグリルがボコボコになっても「それが?」と言わんばかりに元気だ。そのクジラの現行品も……。
画像の旧タイプはプレミア価格で取引されている。
さて、お次はプラグである。アンバランスが多用されるプレイヤーにはお馴染みのフォンプラグである。そして超定番のスイッチクラフトだが、画像上と下の2本のプラグの違いが判るだろうか?
刻印の違いはすぐ判るよね、このカバー部分、実は音質に大きく影響する。同じ物でもカバーだけ金メッキ等の物と比較するとぜんぜん音が違う。
そしてチップの部分の絶縁体が違っているのが判るだろうか?下が現行品。どっちの音が良いかは好みの問題で正解が有る訳では無い。ただ言えるのはこの2本の音はまったく異なるってことだ。もちろん私が子供の頃から慣れ親しんだ世界スタンダードのあの音は画像上である。
さてさてアンプなのだ。昨今の流行は軽量コンパクトでハイパワー。「ギグパックに収まる800W!」なんてキャッチコピーをよく目にする。
新しい磁性体が開発されてアルニコからフェライト、ネオジウムとスピーカーユニットのマグネットも軽量ハイパワー化され、それがアンプ全体の重量を大幅に軽くさせている大きな要因だが、一番の要因はあの大きくて重たいトランスが無いことだ。
トランスレス、スイッチング、クラスD…等、それぞれまったく同じでは無いが、電源部スイッチング回路がその主な機能。ここ10年くらいで各メーカー急激にスイッチング・アンプのラインナップを揃えているが、これはまぁ、ぶっちゃけて言ってしまうとアンプメーカーが努力して開発した訳ではない。
パソコンを代表とするデジタル家電(PCを家電とするのは違和感あるけど。)が普及し、洗濯機や炊飯器、エアコンや大型TVまで、今や皆マイコン搭載は当たり前(内蔵OSは日本のトロンってのは誇らしいけど)。その家電等のデジタル化、ダウンサイジング等によって大きく需要を伸ばした為スイッチング回路の生産コストが大きく下がった訳だ。
アンプ等いくら売れたって何百台、せいぜい数千の単位だが、家電やPCとなるとケタが違う。
超大量生産で大幅にコストの下がったスイッチング回路のパーツをアンプメーカーが「使おうよ、安く作れるし。」なんて流用したって訳だ。
もちろん軽量コンパクトはミュージシャンにとってはありがたい事である。それは多分、私が一番良く知っている(だって重いもん、私の機材は)。扇風機の回転が1秒間に半回転減ったからと言って「暑い!風弱いなコレ!」とは誰も言わないだろう。しかしアンプは家電とは違うのだ。
トランスや電源を溜め込む大型電解コンデンサを持たない、元電源依存のスイッチング回路のアンプが世界で1番電源事情の悪い(停電しないとかは別の話)日本でまともに駆動するのか? しないね、残念ながら。
画像左はPro-5の中身。中央の円筒形がトランスだ。デカくて重い、カタログデータでは27.3kgとあるがキャスター付きのケースに収めると40kg近くになる。
でもね、盛大にカタログで800Wです1200Wですなんて言ってるスイッチングアンプなんぞ軽く凌駕する。Pro-5は8Ωドライブだと600W程だけどね。解像度、スピード感はもちろん体感パワーもね。カタログに記載されている出力なんてパワー・トランジスタの理論値みたいなもんで、実測で計ってるんじゃないからね。デタラメとは言わないけれど目安程度の物。ちょっとアンプの解る人ならその他のデータである程度読み取れる物もあるが、そもそも楽器用のアンプにダンピングファクタだの能率だのなんてデータの記載などはあまり無い。「100Wぉ〜!」ただそれだけである。出力表示だけで(大きいとそれだけ余裕のある音が出る。小さい音でも解像度が高い)アンプのパワーと判断するのは良くない。アンプのパワー(力、実力)とは抵抗やコンデンサ等の小さなパーツ、ワイヤリング、キャビネットの作りまで含め総合的な物なのだ。
老舗ブランドの定番モデルは信頼、安心を買うようなものである。しかし生産拠点が本国から人件費の安い諸国へ移っただけで価格が下がった訳では無いと言う事を知っておいた方が良い。企業として生き残りを掛けてコスト削減に必死なメーカーでは無く、信頼すべきは自分の耳だ。